皆様お疲れ様です。ユキピロです。
ウマ娘では双子について語られることがあります。
アドマイヤベガやアイネスフウジン、メジロアルダンなどですね。
特にアドマイヤベガは、生まれることのなかった「双子の妹」に対して非常に強い罪悪感を抱いており、ストーリーの中核をなす要素として語られています。

出典:アプリ「ウマ娘プリティーダービー」
詳細はアプリ「ウマ娘プリティーダービー」でアヤベさんを育成するか、YouTubeあたりでアニメRTTTを視聴していただくと良いと思います。
で、実際の競走馬の双子事情はどうなのか?
疑問に思い調べてみたので小ネタとして紹介します。
競争馬の双子
競走馬の双子はかなり珍しい存在です。
有名なところだと前述したダービー馬アイネスフウジンの弟である「リアルポルクス」「リアルカストール」兄弟がおり、アプリでもネタとして仕込まれています。

出典:アプリ「ウマ娘プリティダービー」
アイネスフウジンが日本ダービーを制した1990年にゲイメセンを種付けされた母テスコパールは、翌1991年に双子を出産しました。
「リアルカストール」が1994年6月18日に中京競馬場でデビュー(6着)。その翌日に、もう1頭の「リアルポルクス」が同じく中京競馬場でデビュー(16着)を果たしています。
Wikipediaによるとこれが日本における3例目だそうですが、どういう括りでの3例目かについては詳細な記述がありませんでした。
なお、双子が2頭とも中央デビューすることを条件とした場合は、後にも先にもこの1例だけになるのではないかと言われています。
一応気になったので調べた結果、双子が競争馬として登録された事例を前述の例以外に3例発見しました。(今後も見つけ次第追記していきます)
①1970年生まれ「ニューシャドー(牝)」「レツドシャドウ(牝)」姉妹
ニユーシャドウは岩手競馬、レツドシャドウは川崎競馬に所属し、両馬とも繫殖牝馬として活躍しました。
こちらは実は三つ子だったとの情報もありました。
②1980年生まれの「ニシノエーシロー(牡)」「ニシノビー(牡)」兄弟
両馬ともに大井競馬に所属し、ニシノエーシローの方は1勝したとのこと。
冠名から察した方もいらっしゃると思いますが、「ニシノフラワー」「セイウンスカイ」で有名な西山茂行氏の実父西山正行氏がオーナーをしていた「西山牧場」名義の馬です。
③同じく1980年生まれの「コート―バナー(牝)」「グレースバナー(牝)」姉妹
両馬とも中央競馬に所属したものの、デビューは出来なかったようです。
姉のコートーバナーは繫殖牝馬として活動したとのことです。
なぜ双子が少ないのか
では「なぜ双子の事例が極端に少ない」のでしょうか?
理由としては、本来サラブレッドは単胎動物であり、双子を妊娠した(双胎妊娠)場合のリスクが非常に高いことがあげられます。
Pascoeら(1987)によれば、結果的に双子であった130頭の妊娠馬から、たった17頭(13%)しか生子を得ることができなかった
双子の減胎処置について -馬の資料室-
https://blog.jra.jp/shiryoushitsu/2019/03/post-accb.html
と報告されているように、双子を妊娠した場合はそもそも子供が生まれないのです。
馬の双胎妊娠は、非感染性流産(Non-infectious abortion)の最も重要な原因の一つで、片方の胎児が成長不全から斃死に至る場合が多く、両方の胎児が難産を示さず健康に分娩される確率は約2%に過ぎないことが報告されています。
馬の病気:双胎妊娠 -獣医ズ ビー アンビシャス-
http://rowdypony.com/blog-entry-288.html
とあるように、生産者からは双子の妊娠は重篤な症状として扱われています。
命にかかわる状態と考えると病気扱いでも全くおかしいことではないですよね。
ハイリスクノーリターンでは、双胎妊娠を維持する必要性が無いことが理解できると思います。
双胎妊娠に対応する方法として、排卵後16日以内に超音波エコーを用いた初回妊娠鑑定を実施し、2つの胚を確認次第、人の手で減胎処置(2つある胚うち1つをつぶすこと)をするそうです。
現在確立されている減退処置の方法は、母体に悪影響なく処置できる方法として、広く普及しているとのこと。
馬にエコー検査が用いられるようになったのは1980年代からとのことで、1996年生まれのアドマイヤベガの場合も超音波エコーを用いた減胎処置をしたと思われます。
ベガほどの名牝とサンデーサイレンスとの仔、それも初仔にリスクなんてもってのほかですからね。
ネット上では、「双子の競争馬は大成しないから片方を潰す」という言説を見ることがありますが、前述のとおりそれこそが世迷い事で、「双胎妊娠は重篤な症状で、母子ともに危険だから」というのが実情のようです。
ちなみにメジロアルダンは双子として妊娠し、発見が遅れ減胎処置が間に合わず、双胎妊娠のまま時間が経過し、片方は死産となったものの、メジロアルダンは生まれることができたというエピソードが残っており、アプリでもそのエピソードのイベントがあります。

出典:アプリ「ウマ娘プリティダービー」
双子の競争馬は大成しない
「双子の競争馬が大成しない」のは、物理的に小さく生まれることが多く、母馬からの母乳も制限があるため、事実と言って良いと思いますが、「双子の競争馬は大成しないから片方を潰す」という言説が間違いであることは説明したとおりです。
では、なぜ「双子の競争馬は大成しないから片方を潰す」という言説がまかり通ってしまうのでしょうか。
調べた限り、どうやらこの「双子の競争馬は大成しないから片方を潰す」という言説の出典のひとつが寺山修司氏の著書にあるようです。(このブログの方の記憶という曖昧な情報で恐縮ですが、これから著書を買って裏取りをしますので、一応確からしいということで話を進めさせていただきます。確認でき次第追記します。)
寺山氏は「競馬を文化に引き上げた」と言われるくらい、競馬界の発展に寄与した偉人ですが、1983年に亡くなってます。
寺山氏は1963年から競馬に関わっていたそうですので、競馬関係の著書・コラムについては40年~60年前の知識・常識に基づき執筆されていたことになります。
エコー検査装置も無く(普及は1980年代)、双胎妊娠に係る研究も進んでいない(Pascoeらの研究は1987年)という時代背景を考えると、当時(1980年代以前)は経験則として「双子の競争馬は大成しないから片方を潰す」が常識だったと思われます。
そして、厄介なことに「双子の競争馬は大成しない」こと自体は事実であるうえ、双子の競争馬が非常に稀な存在であるために、双胎妊娠の研究が進み生産者には双胎妊娠の危険性が広く知れ渡った後も、世間の認識は40年以上前の常識で止まっている状態という訳ですね。
しかし、少し調べれば分かることなので、いまだに「双子の競争馬は大成しないから片方を潰す」という言説がまかり通っていることに恥ずかしさすら感じます。
もっと恥ずかしい話をしますと、下調べを十分にすべきである新聞ですら、遠い過去の常識を基に記事を書いています。
2013年の産経新聞の記事ですが、ブログで残してくれていた方が2名いらっしゃいました。ありがたく参考にさせていただきます。
内容は上記ブログを参考にしていただくとして、この記事は嘘は書いてないですが、本当のことも書いておらず、結果としてミスリードをしているというのが私の印象です。
知識が無いのか意図的かは分かりませんが、減退処置を「人工流産」と呼び、「双子は競争馬として大成しない=売れない」から生産者は双子を生ませないようにしていると話を展開しています。
一応、生まれた仔の障害のリスクについて記載はありますが、双胎妊娠のリスクを過小評価していると言わざるを得ません。
2013年の新聞が1980年代以前の常識をそのまま書いている訳ですが、人間で言えば「運動中に水を飲んではいけない」というレベルの話を大真面目に記事にしているようなものです。
「双子ジョッキーが偉大な記録を達成した!」と記事にするだけで良かったのではないでしょうか。
双子の妊娠確率
次に「双子の妊娠確率はどれくらい」という疑問が出てきたと思いますので、こちらも調べたことをお伝えしようと思います。
調べた限りの最新の数値は以下のとおりでした。
馬は双子の発症率が高い。サラブレッド種は特に高く、10%程度だそうだ。
スリーフィンガーテクニック-イノウエ・ホース・クリニック-
排卵促進剤を使うとより双子になりやすく、デスロレリンの場合では19.7%、hCGでも14.8%と報告されている。
https://www.iequineclinic.com/2018/03/29/スリーフィンガーテクニック/
何もしなくても約10%、排卵促進剤を使うと約20%まで上がるとのことですが、予てから排卵促進剤の使用は増加傾向にあるとの報告がありますので、間を取って15%として計算すると、日本のサラブレッドの年間生産頭数が約7,780頭(2022年)とのことですから、少なくとも年間1,000頭以上の双胎妊娠馬がいたことになりますね。
つまり双胎妊娠は発生確率の高い極々一般的な症状という訳です。
ちなみに、排卵誘発剤の是非について意見がある方もいらっしゃるかと思いますが、サラブレッドは経済動物ですから、生産者目線でいくと、妊娠確率をあげるために本来であれば牛や豚のように人工授精もしたいところだと思います。
しかし、国際血統書委員会(ISBC)によって人工授精、受精卵(胚)移植等の人工的な手段による生産が禁止されていますので、安定した生産をしていくためには排卵誘発剤に頼らざるを得ないのだと思われます。
排卵誘発剤以外に良い方法があれば、生産者の方々に非常に有益だと思いますので、研究して論文にまとめていただければと思います。
まとめ
ということで、競争馬の双子について調べてみました。
①馬の双子は「超絶稀」。双子の妊娠は「普通」。
②ネットの情報を鵜吞みにせずに知識をアップデートしよう。
というのが本記事のまとめになります。
本当に恥ずかしいので、「双子の競争馬は大成しないから片方を潰す」とは言わないようにしましょうね。
感想
最後に個人的な感想となりますが、アドマイヤベガを双子と結びつけて、殊更に悲哀を強調しなくても良いのではないかと感じました。
減胎処置自体は普通のことで、確率的に考えて他の有名どころも何頭かは減胎処置を受けていたのは間違いない訳ですし。
なぜ「アドマイヤベガ=双子」のイメージがついたのか、私の推論で恐縮ですが、ネットを探してみると何年かごとに「実はアドマイヤベガに生まれなかった双子の兄弟がいた」的な記事やブログ、ホームページが散見されます。
こうやって何度もネタにされることで、「アドマイヤベガ=双子」のイメージが付いたのではないかと思われます。
なお、「アドマイヤベガ=双子」が有名となったきっかけについても調べましたが、最初の情報源は分かりませんでした。
知っている方がいらっしゃれば是非とも教えていただければと思います。
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